愛による全面受容と心の癒しへの道(89)

峯野龍弘牧師

第5章 心傷つき病む子供たちの癒しへの道

Ⅵ. アガペーによる全面受容とその軌跡(自立への7ステップ・法則)(前回に続く)

■アガペーによる全面受容の軌跡と癒しへの7ステップ(法則)
<第8ステップ> 受容の愛の環境下における成功、不成功の反復学習と感覚
育成による自立の実現 ―他者受容・環境受容・健全な人間関係の始動と真の社会性の発芽―

さてここでいま一つの登るべき最終のステップについて述べておきましょう。これこそ彼らが自立し、他者や彼らがこれから飛び込んで行かなければならないあらゆる環境に対して適合して行かなければならないための最終準備なのです。その最終準備とは、彼らが「自己改革への勇気ある挑戦」を始め、自らの自由意志によって、はじめて物事を選択決定しそれに取り組み始めた時、並でない不安とストレスを受けるのですが、このことに対する適切な対応の仕方と、またその挑戦に失敗した時や成功した場合への最善なフォローの手だてを過たないことです

すなわち彼らは、今やかつてにおいては全くあり得なかった健気な勇気をもって、その新しい課題・目的に向かって取り組み始めたのです。この時アガペーによる全面受容者たちは、彼らとぴったり呼吸を合わせ寄り添い、その彼らにエールを贈り続ける必要があります。しかし、このエールを贈ると言うことは、単なる激励を送ると言うことではありません。単なる激励は、かえって彼らにプレッシャーを与えてしまいます。ここで言う全面受容者のエールとは、彼らの不安な気持ちに寄り添い、それでもなお挫けずに目的に向かって突き進もうとしている彼らの姿に、心からの感動と畏敬の念をもって褒め言葉を贈るのです。そして万が一失敗しても気を挫かないように、愛のフォローに努めるのです。もし成功したなら心から共にその成功を喜び、その労苦を労うのです。「やれば出来るではないか」と言うような言葉がけは、絶対禁物です。

なぜならこのような言葉がけの背後には、「今までやらなかったから出来なかったのだ」と、またしても彼らを責めているような言葉を連想させてしまうからです。そうではなくあくまでも彼らの成し遂げたその勇気と努力に感動し、それを心から讃えるのです。そしてその労苦を労うのです。

そしてその反対に彼らが失敗してしまった時には、如何なる場合でも彼らを絶対に咎めず、慰め労わり、その痛みと悲しみに優しく寄り添うべきです。

多くの場合彼らがこのように新しい、しかも今まで一度も取り組んだことのない課題に挑戦するのですから、失敗したとしても不思議ではありません。むしろ失敗して当然とも言えましょう。それにも関わらず彼らが失敗するかもしれない難題に、今や勇気をもって挑戦し、取り組んだことにこそ大きな意味があります。そこでアガペーによる全面受容者たちは、単なる慰め言葉ではなく、あたかも成功したかの如くその勇気ある挑戦に対して感動し、よくぞこの新しい課題と目的に向かって取り組んだことを高く評価し、心からの褒め言葉をもって労い、当面の事柄に成功しなかったにしろ、その挑戦自体にしっかりと取り組み、それを果たし終えたことにこそ大きな意義と価値があったことを心底から喜んであげるべきです。こうすることによって「失敗」それ自体が失敗ではなく、失敗を恐れてそれに取り組もうとしなかったことこそ、人生における大なる失敗であったことを学ぶことが出来たら幸いです。ここで何よりも大切なことは、失敗によって挫折してしまうことがないように、更なる次の挑戦が出来るように繋がせてあげることです。ここでこそ重要なことは、「アガペーによる全面受容」をもって彼らの心をしっかりと受け止めて、変わらぬ愛の受容の環境下に彼らを迎えてあげることです。

そこでかくすることによって失敗しても、成功しても繰り返しその体験を積み上げて行くことによって、彼らの中に自立への大切な感覚を掴ませてあげられるのです。この失敗と成功の反復学習による自立への感覚の育成は、彼らの社会的適応を可能にし、自らこのような場合にはこう対応し、またあのような場面ではこのように対処すれば、成功もし失敗もするのだと言う感触をつかませてくれるのです。このような感覚を摘み取ることに比例して、彼らは自信を持ち始め、他者への恐れが薄れ行き、他者や他者の意見を、また周囲の人間や環境を受容することが出来るようになるのです。その時健全な人間関係を結び、社会性を身に着けて行くことが出来るわけです。ですからこの失敗と成功の反復を通しての感覚育成と学習は、彼らが自立し健全な人間関係を結び、社会性を身に着けて行くために、極めて大切な最終プロセスであり、またステップなのです。このことを良く心に留めてケアーに当たる受容者の皆さんが、しっかりとフォローしていただけたら幸いです。(続く)

峯野龍弘(みねの・たつひろ)

1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。

この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。

主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。

感謝、賞賛の言葉を豊かに注ぐ 自尊心の回復