愛による全面受容と心の癒しへの道(119)

峯野龍弘牧師

第7章 「ウルトラ良い子」を健全に育てるための「アガペー育児法」

Ⅳ、第3期 7歳から12歳までの児童期の教育(前回からの続き)

C、後期児童期

さて、いよいよ児童期の最終期を迎えました。この時期を後期児童期と呼んでいますが、概ね9歳もしくは10歳頃から12歳位までを指しています。
この頃ともなると徐々に外面的、具体的なものから離れて、内面的、抽象的ものに関心が移り、更には自分の単に感情の赴くところから自らを制し、自己を静かに見つめ直す営みが出来るように成長して行きます。のみならず数概念も大いに発達して、物事を大局的、総合的、体系的に捉え判断する能力も徐々に増し加わって来るので、両親たちもこのことをよく心に留めて、子供の発育・成長を助けることが肝要です。ところが両親たちはこの頃ともなると自分たちの忙しさにかまけて、すっかり学校任せにしてしまう傾向がありますが、これは極めてもったいないことをしてしまうことになります。折角、大人としての資質をしっかりと身に着けて行くべきこの大切なチャンスを逃し、子供の知性・理性の発達のためにまたとない絶好のこの時期に、その論理的思考や総合的、体系的判断の育成に必要な良きものを提供するために、大きな手抜きをしてしまうことになるからです。このことはこの次に来る思春期をいかにうまく、かつ大過なく乗り越えて行くことが出来るようになるか否かに、大きく影響するのです

そこでこの時期には子供たちにこうした資質を養うために有益な書物を楽しく読ませたり、様々な良き社会見学を試みたりすることが大切です。もちろんこの種の資質を養い育てるのに有益な講演会や学習会、またテレビ番組やDVDなどを大いに活用することもよいでしょう。何よりも心がけるべきことは、この時期を有意義に過ごすために、親自身が触角を張り広げて学校教師や専門家等の良きアドバイスを受けたり、適切な情報収集を怠らないということです。この点で多くの世の親たちは、それほどには気付かずにこの時期を逸してしまっているのではないでしょうか。これまたよく注意することが必要です。

Ⅳ、第四期 思春期・青年前期

この時期は、児童期を抜け出して、いよいよ青年期に進む過渡期であって、12歳から15歳位までの時期を意味しています。この時期もまた極めて重要な時期であって、別称「第二反抗期」などとも呼ばれます。言わば「青年前期」と言えます。

この時期を迎えた子供たちは、肉体的にはほぼ大人の域を迎え、立派に大人として発育成長を遂げて来ています。しかし、精神的にはなお不安定で、未成熟な域を脱してはおらず、とりわけ自我感情が強く芽生え、自発性と共に自己主張が強くなり、他者との調和を求めつつも、その調整に自ら戸惑い、時にはいら立つと言った不安定状態を生み出すのです。この状態が時には過去の伝統や上に立つ権威と言うべきものに疑問を感じたり、抵抗感を抱いたりするようになり、この状態がいわゆる“第二の反抗期”と言われる所以なのです。この状態はまだ彼ら自身の内に充分な自己確立が出来ていないことを物語るもので、しばしばこれを「自我同一性のあがき」などと呼ぶ者もいます。

しかし、これはそれまでの親や教師たちへの一方的な依存関係から抜け出して、仲間同士の対等な関係の中で自発的に何かを考え、各自が自己責任や共同責任をもって自分たちの独自の新世界、新境地を切り拓いて行こうとする営みで、こうした中から相互信頼や各人の役割分担、各自の個性の発見などがなされ、大切な社会性を身に着けて行くことができるのです。それゆえこれまた重要な成長過程の一プロセスと言うことができます。

ちなみに、この時期には身体的には男女の性差がはっきりし、性的にも成熟して、心身共に子供から大人に変化する時期であって、精神的にも肉体的にも今までに経験したことのなかった新しい変化の到来のゆえに、思春期の子供たちには様々な悩みや葛藤が生じるのです。ですからこの時期の子供たちに対しては、決して大人の是々非々論をもって対応することなく、深い愛と理解をもって彼らに寄り添い、受容して行くことが不可欠なのです。いたずらに彼らの一見反抗と見える言動を嘆いたり、ましておやそれを逆なでするような叱責を加えたり、争ってはならないのです。そのような時には、決して慌てたり戸惑ったりなどせず、穏やかに受け流し、時間をかけてその成長と克服を見守ってあげるべきなのです。この思春期の反抗は、むしろ規定通りの健康的な人間成長の過程にあることの最良のしるしだと思って、そのプロセスにエールを贈ってあげて下さい。ご安心ください。お分かりいただけたでしょうか!(続く)

峯野龍弘(みねの・たつひろ)

1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。

この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。

主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。